はじめて読むひとは、ぜひ「その1」からお読みください
その九 プラスマイナスゼロ[不増不減]
(増えることもなければ、減ることもないではないか)[
と、お釈迦さまは弟子の舎利子にいいます。
エネルギー保存の法則
この「増えず、減らず」は、科学でいえば、エネルギー保存の法則ということになるでしょう。すべてのものは、形は変化してもエネルギーは永久に変化しないということです。
体重は食べれば増え、食べなければ減ります。しかし、それは体重計での話です。単純に計算しても、1キロのご飯を目の前にして、それを食べれば1キロ体重は増えます。しかし、目の前の1キロのお米はなくなっているのですから、プラスマイナスゼロです。あなたの体重とお米の重さの合計は増えても減ってもいません。
また、トイレに行けばもちろんですが、運動をしても体重は減ります。これは食べ物のエネルギーが体を動かすエネルギーに変化しただけで、エネルギーの量は増えても減ってもいません。
お金にしても「天下の回りもの」の言葉通り、あちらからこちらへ、こちらからあちらへ移動しています。お金を使えば、それが物やサービスという形に変わっているはずです。それを私たちは「お金」だけに執着しているので「減った」と感じてしまうのです。そしてお金が減ることを「苦」と感じるのは、たくさんのお金がほしいというエゴから来ていることを知りなさいというのが不増不減です。
般若心経の、私たちの日常で起こる具体的なことがらを例に取った考え方——「(ものごとはその本質において)
内容について、ある程度納得いただけたでしょうか。
もちろん実際の生活ではとても納得できないという方も多いでしょう。「あんたの言うことは分かる。しかし、同意はできない」というところでしょう。
仏教と道徳
仏教は、私たちの生活の規範となることを扱うことがあります。それは「道徳」と重なることが少なくありません。お坊さんが「人として生きる道」をお説法するのと、親や学校の先生が道徳を教えるのも表面上はとても似ています。
しかし、仏教は、道徳といわれる社会生活の規範となる考え方の土台として、いったい私たちって何? 世界はどういう法則で動いているの? 宇宙とは何? 時間とは?ということを心静かに深く深く観察し、考えていきます。道徳はそこまでは立ち入ることはしません。
そういった仏教の考え方の土台になるのが、ものごとの本当の姿を見極めることなのだ、というのです。
本当の姿を見極め、考える力を智慧といい、梵語の「パンニャー」から般若と音写されました。そして、その本当の姿のありようを「